カンボジアで読む「枕草子」 <日本語の教室から>


カンボジアで読む「枕草子」


 王立プノンペン大学では、4年生になると「日本文学」の授業があります。3月に新学期が始まってから、太宰治の『走れメロス』や芥川龍之介の『鼻』『魔術』を読んできました。どちらも明治時代を代表する有名な作家ですが、原文では少し難しすぎるので、日本語学習者用にリライトされたものを使っています。


 カンボジアでは本を読む習慣がほとんどないという話をいろいろなところでよく聞きます。確かに町を見渡してみても、本屋はほとんどありません。そのため、日本語でも読解を苦手とする学生がとても多いように見受けられます。ただ、「日本文学」の授業は、読解の授業のようにひたすら文章を読んで答えを見つけ出すというものではなく、日本の有名な作家の代表的な文学を読み味わったり、日本の古典文学に触れ、日本人の感性や季節感について知ったりすることを目標としています。4年生になると、卒論を書かなければならなかったり教育実習に行かなければならなかったり、忙しい日々が続きます。私は、この授業では純粋に文学作品を楽しんでほしいと思っています。


 新学期が始まったころに簡単にアンケートをとってみたところ、日本の作家を知っていると答えた学生はほとんどいませんでした。かろうじて数名芥川龍之介を知っているという学生がいましたが、あとはマンガ家やアニメ作品の監督とごっちゃになってしまっているようでした。確かに日本の古い文学作品を読む機会なんてほとんどないだろうし、小説を読むというのは、日本語上級者であっても難しいことです。それに、今は日本の小説よりもマンガやアニメのほうが圧倒的に人気です。明治時代の作品を読むのは難しすぎるかと心配していましたが、思ったより楽しんで読んでくれている学生もいます。芥川龍之介の「鼻」はお坊さんの話なので、イメージしやすく学生も楽しんでくれるかと思ったのですが、意外にも「魔術」のほうがおもしろいと言っていた学生が何人かいました。


 先日、清少納言の『枕草子』を授業で読みました。『枕草子』は『源氏物語』と並んで平安時代を代表する文学作品のひとつです。特に、序段の「春はあけぼの」は、春夏秋冬のそれぞれの「をかし」をあらわした素晴らしい随筆です。ところが、カンボジアは常夏の国です。冬の「つとめて」の寒さはなかなかイメージしにくいだろうし、秋の「夕暮れ」だって日本人がイメージするものとは少し違うでしょう。しかも古文で読むとなると、彼らには難しすぎます。

 

 そこで、私は動画の助けも借りることにしました。美しい日本の風景とともに、「春はあけぼの」を朗読してくれているちょうどいい動画を見つけたのです。授業後に簡単にアンケートを取ってみると、やはり「難しい」と答えた学生が半分以上いました。古文を読んだのも、ほとんどの学生が初めてだったようです。でもイメージはなんとなくつかめたとコメントをしてくれた学生が何人かいたので、初めて古文に触れた授業としてはまずまずだったのではないかと思います。


 学生のころは退屈でしかたなかった古文の授業、南国のカンボジアで読む「春はあけぼの」は日本の移り変わる季節を思い出させてくれ、心に染み入りました。冬の朝の凛とした空気と、子ども時代の夏の夕涼みを思い出して、なんだか日本へ帰りたくなってしまいました。


<筆者紹介>

松田朋子(まつだともこ)

国際交流基金派遣日本語専門家(王立プノンペン大学日本語学科)

2020年3月より現職。神奈川県出身。








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